ここでは腸の仕組みと働きについて述べています。
近年、腸は「脳」と同じように大切な器官であるとして注目されるようになりましたが、その最大の理由は腸が365日まったく休むことなく「いのち」をつくり出しているからです。
腸は私たちが体内に摂り込んだ「食」を「いのち」にかえる役割を果たしています。つまり、腸は消化管の主役として、「食」から得られる栄養分をからだの細胞を作り上げる物質に変えたり、日々の生命活動を維持するためのエネルギーに変えたりしているのです。
そのため腸は時々「内なる外」と呼ばれることがありますが、これはからだの内部にありながら、外からやってきた食物と接触して、消化・分解・吸収を行っているからです。
また、それだけではなく、腸は限られた外界との窓口として、免疫の働きをする細胞が細菌やウイルスの侵入を防いでいます。腸のなかでも特に小腸は免疫系としても非常に重要な役割を担っているのです。
さらに神経系やホルモン系とも深く関わっており、免疫系・神経系・ホルモン系の3つが互いに協調・協力し合いながら、からだ全体が正常に保たれるよう懸命に働いています。
したがって、このような働きをもつ腸は「生命の源」だということが出来ます。ちなみに、進化した人間の腸のルーツをたどると、ホヤのような「原索動物」に行き当たると言われています。
それに加えて腸の蠕動(ぜんどう)運動を支える腸神経系は脳から独立しているうえ、1億個に及ぶニューロンを使って満腹感などを脳に伝えているため、腸は「第二の脳」と呼ばれることがあります。
胃に続く小腸は長さが6~7メートルある管で、十二指腸、空腸、回腸から成っています。回腸の終りの方にはたくさんの集合したリンパ節の集団があり、生体防御の役割を果たしています。また、小腸では消化された物質の約90%が吸収されます。
小腸の直径は約4cmで内壁には輪状ひだがあります。輪状ひだには約500万個の「腸絨毛」があり、その根元には腸液を分泌する腸線があります。また、腸絨毛にはリンパ管と毛細血管が通っており、吸収された物質のうち、脂質のほとんどはリンパ管、グルコースとアミノ酸は毛細血管を通って運ばれます。
ちなみに輪状ひだと腸絨毛の表面を合わせると、小腸全体の表面積は人間の体表面積の約5倍にあたるとされています。
さらに、腸絨毛には吸収上皮細胞があり、吸収上皮細胞の表面は長さ1μmほどの微絨毛で覆われています。
また、小腸からアルカリ性の腸液が分泌され、胃から送られてきた物質の中和を行ないます。それに加え、吸収上皮細胞の微絨毛膜には消化酵素が存在しており、栄養素の消化吸収に重要な役割をもっています。微絨毛膜では、消化されて出来た栄養素が周辺にいる細菌に奪い取られないよう、大切な栄養素は素早く吸収されます。
そのほか、小腸の空腸・回腸部分には、消化ホルモンを分泌する「腸内分泌細胞」や、セロトニンを放出する「腸クロム親和性細胞」、病原菌が腸内に侵入しないようペプチドを放出する「パネート細胞」、腸の上皮細胞を保護する「杯細胞」などが存在しています。
大腸は長さが1.6~2mある管で、盲腸、結腸、直腸の三つの部分から成っています。
また、大腸の壁は杯細胞で覆われ、大腸の粘液が分泌され、排泄しやすい糞便を形成します。大腸では小腸で吸収されなかった水分の再吸収も行われ、消化物のかすを便として整えていきます。やがて便は体外に排出されますが、その成分は腸内細菌の死骸や生菌、消化されなかった食物の残りかすなどです。
さらに、大腸の壁面には一定の感覚でくびれとふくらみがありますが、これらは内容物を溜めておくと共に、蠕動運動が起きている際に、内容物を絞り、水分を吸収しやすくするために存在しています。
それに加え、大腸には100種類以上の腸内細菌が生息しており、その発酵作用で食物繊維を短鎖脂肪酸に分解します。短鎖脂肪酸は大腸で吸収され、腸などのエネルギー源となります。そのほか、腸内細菌はビタミンKの産生も行います。
参考文献
上野川修一 『からだの中の外界 腸のふしぎ』 講談社
光岡知足 『腸を鍛える―腸内細菌と腸内フローラ』 祥伝社
三木成夫 『内臓とこころ』 河出書房新社
西原克成 『内臓が生みだす心』 NHK出版
藤田紘一郎 『脳はバカ、腸はかしこい』 三五館
川島由起子監修 『栄養学の基本がわかる事典』 西東社
『しくみと病気がわかるからだの事典』 成美堂出版