腸内フローラや腸内環境を改善して腸内細菌のバランスを整えていくことは、認知症の予防に効果的です。
では腸内フローラと認知症がどのように関係してくるのかといえば、まず「腸内細菌のバランス」と「便秘」の問題が挙げられます。
腸内細菌学のパイオニアであり、東京大学名誉教授である光岡知足氏は、認知症やアルツハイマー病の患者さんの腸内フローラは、健常者の腸内フローラと比較した場合、悪玉菌(ウェルシュ菌)の菌数が顕著に高い傾向にあったと述べています(参考 『腸を鍛える 腸内細菌と腸内フローラ』)。
また、光岡氏は認知症の患者さんたちの多くは便秘にも悩まされていたとも述べており、腸内フローラや腸内環境の悪化は、認知症と何らかの関係があると推察できるのです。
ところで「認知症」は脳の神経細胞の死滅や脳機能の衰退によって起こるとされていますが、その発症原因については解明されていません。
病名 | 説明 |
アルツハイマー型認知症 | 認知症の6割を占める。記憶障害、見当障害が目立ち徐々に進行する。薬による治療が可能となりつつある。 |
前頭側頭葉変性症 ①前頭側頭型認知症 ②意味性認知症 |
①ピック病と呼ばれてきた病気で性格変化が目立つ。②言葉の意味がわからなくなることが特徴。 |
レビー小体型認知症 | 幻視とパーキンソン症状が目立つ認知症。 |
血管性認知症 | 脳血管障害の後遺症として発症する。アルツハイマー型に次いで多い。記憶障害は不完全で抑うつがみられる。 |
アルコール性認知症 | 酒類の長期大量飲酒で発症する。他の認知症の悪化因子にもなる。攻撃性や暗示にかかりやすい特徴。 |
頭部外傷後認知症 | 転落事故や交通事故でなりやすい。脳挫傷の後遺症。 |
脳炎後認知症 | ヘルペス脳炎やインフルエンザ脳症などの後に起こる。 |
特発性正常圧水頭症 | 歩行障害や尿失禁が目立ち、手術で治る可能性がある。 |
代表的な認知症(伊古田俊夫『脳からみた認知症』より抜粋)
では、なぜ腸内フローラを改善することが脳の機能を健康に保つのに関係してくるのでしょうか?
実は腸は「第二の脳(セカンド・ブレイン)」と呼ばれているほど、脳と密接な関わりがあるのです。また、「腸脳相関」という言葉があり、腸と脳は密接に連動していると言われています。
ちなみに、消化管である腸にも、脳のおよそ6割にものぼる数の神経細胞が存在するとされています。
腸には、多数の神経細胞が存在します。腸の神経細胞の数は大脳の次に多く、ほかの神経細胞を全部合わせたよりもたくさんです。腸管の周りを神経細胞がびっしりと取り囲んでいて、神経細胞のネットワークを作っています。
腸神経系は、腸内を通る物質の情報をキャッチして腸全体や他の臓器に伝達し、病原微生物をやっつけたり、食事量に合わせて代謝をコントロールしていると考えられます。 そのため、「腸は第2の脳」ともいわれています。
でも、私は腸の方こそ第1の脳だろうと思います。
(辨野義己『腸を整えれば病気にならない』 p104)
さらに、脳内で分泌される「セロトニン」や「ドーパミン」といったホルモンの前駆体は腸で作られることが知られています。神経伝達物質の「セロトニン」は幸福感に関わりますし、「ドーパミン」はやる気や報酬系に関係しています。
この「セロトニン」や「ドーパミン」が合成されるためには、ビタミンB6や葉酸といったビタミン類が必要になるのですが、そのビタミン類を効率的に作り出すのは腸内細菌です。
それに加えて、腸内細菌は精神を安定させ、認知症の予防に対しても期待が持てる「GABA」の生産にも関わっているとされています。
そのほか血中の「ホモシステイン(必須アミノ酸の一種であるメチオニンの代謝における中間生成物)」の濃度が上昇してしまい、アルツハイマー型認知症の発症リスクが高まるとされていますが、その「ホモシステイン」の血中濃度が高まる原因は ビタミンB6やB12、葉酸 といったビタミンB群の不足だと言われています。
そのため、普段からビタミンB群やGABAなどを生み出してくれる腸内細菌のバランスを整え、腸内フローラを改善していくことは、脳や心の健康を保つことにつながっていきます。
ちなみに善玉菌のうちの特にビフィズス菌は加齢と共に減少していくとされているため、年齢を重ねれば重ねるほど腸内細菌のバランスが崩れやすいと考えられています。
したがって、65歳以上に限らず、30代・40代や50代からでも腸内フローラのバランスを整えたり腸内環境を改善したりするよう心がけることは、認知症を予防したり、発症を遅らせたりするために効果的です。
そのほか、認知症を予防するための対策としては、サラダ油をやめることが挙げられます。
その理由は、サラダ油に含まれるリノール酸やトランス脂肪酸は、脳の神経細胞を酸化によってサビつかせたり、神経細胞同士のスムーズな情報伝達を妨げたりするからです。
特にサラダ油に含まれる「リノール酸」は高温で加熱すると「ヒドロキシノネナール」という毒性の物質を大量に生み出してしまいます。
そしてこの「ヒドロキシノネナール」は神経細胞を守っているリソソーム膜を劣化させ、最終的に死滅に追い込んでしまうのです。
脳科学専門医の山嶋哲盛氏は、『サラダ油をやめれば認知症にならない』のなかで「ヒドロキシノネナールは微量であっても、細胞膜をまるでドミノ倒しのように酸化させてしまうので、存在そのものが怖いのです」と述べています。
またサラダ油には「トランス脂肪酸」も含まれており、この「トランス脂肪酸」は人工的な脂肪酸であるため、一度体内に入ると、プラスチックのように分解されないと言われています。
この「トランス脂肪酸」や「リノール酸」は体内で多くの活性酸素を発生させ、細胞を老化させる原因にもなりますので、脳だけではなく腸の若々しさを保って認知症を防ぐためには、サラダ油を出来るだけ摂らないようにすることが重要です。
参考文献
光岡知足 『腸を鍛える―腸内細菌と腸内フローラ』 祥伝社
辨野義己 『腸を整えれば病気にならない 腸内フローラで健康寿命が延びる』 廣済堂出版
山嶋哲盛 『サラダ油をやめれば認知症にならない』 ソフトバンククリエイティブ
伊古田俊夫 『脳からみた認知症』 講談社
藤田紘一郎 『脳はバカ、腸はかしこい』 三五館