腸内細菌の多様な集まりである腸内フローラを改善する方法には「プロバイオティクス」と「プレバイオティクス」を利用するやり方があります。
「プロバイオティクス」と「プレバイオティクス」の違いは、「プロバイオティクス」は体に良い影響を与える有用菌が含まれた食品のことであり、「プレバイオティクス」は難消化性の糖質といった腸内細菌のエサが含まれている食品であることです。
まず「プロバイオティクス」についてですが、「プロバイオティクス」とは生きたまま腸にたどりつき、そこで産生する乳酸などの代謝産物が、ヒトのカラダに有益な健康効果をもたらしてくれる微生物のことです。
この「プロバイオティクス」を利用した腸内フローラ改善方法では、乳酸菌やビフィズス菌などの体に良い影響をもたらす菌が含まれた食品(「プロバイオティクス」)を直接腸内環境に送り込んであげるのです。
食品から摂取された乳酸菌はやがて体外に排出されてしまいますが、生きたまま腸に届くと、3~7日の間は腸内で乳酸や酢酸をせっせと生み出し、腸内環境を正常な酸性に保ってくれます。
それに加えて、ある種の乳酸菌は腸管のバリア機能を高める作用があるといわれています。
ちなみに「乳酸菌」とは、腸内で善玉菌として働く菌の総称のことで、腸を酸性に保つ役割があります。よく耳にするビフィズス菌や乳酸桿菌は、広い意味では乳酸菌に分類されます。
また腸内の環境は、アルカリ性の体内と違って、病気や感染症を引き起こす細菌やウイルスの繁殖を防ぐために、常に酸性に保たれています。そのため、腸という消化管に関しては、乳酸菌の働きによっていつも酸性に保たれていることが望ましいのです。
ところで、腸は「腸管免疫」と呼ばれている通り、人体の免疫システムの6~7割が集中している重要な器官です。そのため、乳酸菌を摂るようにすることは免疫力の向上につながっていきます。
さらに、花粉症やアトピー性皮膚炎など、アレルギー症状は、腸管の免疫システムの異常が主な原因ですので、乳酸菌によって腸内フローラを改善していくことは、アレルギー症状の緩和にも効果的です。
その理由は乳酸菌を摂ることで腸管免疫の樹状細胞に存在しているTLRと呼ばれるセンサーが働き、免疫系を刺激することになるからです。
ちなみに、乳酸菌を摂る際は、生きたまま腸に届いて働く植物性の乳酸菌などが望ましいとされていますが、胃酸によって死菌となった乳酸菌も腸内の善玉菌のエサになるため、菌が生きているか死んでいるかに強くこだわる必要はありません。
厳密には「プロバイオティクス」とは活きた乳酸菌によって腸内環境を改善することですが、乳酸菌によって腸管の免疫系を刺激するためには、特定の乳酸菌だけにこだわらず、様々な種類の乳酸菌を試してみることが重要なのです。
また乳酸菌は「数」に気をつけて、出来るだけ多く摂った方が良いとされています。
近年は1億個以上の乳酸菌が含まれたサプリメントや乳酸菌生成エキスなどが様々なメーカーから多く販売されるようになってきているため、普段の食事に加えてそれらの乳酸菌サプリメントを摂取してみることは、「プロバイオティクス」として有効です。
さらに、乳酸菌はヨーグルトやチーズ、納豆や漬け物などの発酵食品から摂ることが可能ですので、これらの食材を毎日の食生活に採り入れることは、「プロバイオティクス」の実践につながります。
また「プロバイオティクス」は途中で止めてしまうと、せっかく改善された腸内細菌のバランスが元に戻ってしまうと言われているため、毎日の食事だけではなく、「乳酸菌革命」をはじめとした数億個以上の乳酸菌が含まれたサプリメントや乳酸菌生成エキスなども利用することもおすすめです。
次に「プレバイオティクス」についてですが、これは食物繊維やオリゴ糖など、腸内細菌のエサになる難消化性の成分が含まれた食品(「プレバイオティクス」)を腸内環境に送ることで、腸内細菌のうちの善玉菌を増やしていく方法です。
「プレバイオティクス」の「プレ」とは「~より前に」や「事前に」を意味します。そのプレバイオティクスの定義は以下の通りです。
特に「プレバイオティクス」としての食物繊維は、腸内フローラを改善していくうえで非常に重要です。なぜなら食物繊維は、善玉菌のエサになって腸内細菌を増やす以外にも、腸内細菌が起こす「発酵」と呼ばれる現象を促すからです。
腸内細菌が「発酵」を起こすと、「短鎖脂肪酸」というからだにとって非常に良い影響を与える脂肪酸が生成されます。
この「短鎖脂肪酸」は大腸のエネルギー源になったり、大腸がんを防いだりします。
また肥満細胞に余計な脂肪が蓄積するのを防ぐ働きがあると言われているため、食物繊維によって腸内細菌に「短鎖脂肪酸」を生成させることは、肥満症の予防やダイエットに大変効果的だといわれています。
食物繊維は主に野菜や果物、海藻類、豆類や穀類に豊富に含まれています。
それに加えて、食物繊維だけではなく、オリゴ糖も「プレバイオティクス」として役立ちます。
難消化性のオリゴ糖は腸内細菌のうちの特にビフィズス菌のエサになるため、例えば、普段使っている砂糖をオリゴ糖に替えてみることは、腸内細菌のバランスを整えるのに役立ちます。
さらにオリゴ糖には、血糖値をほとんど上げないという性質があります。
プレバイオティクスとは、体に有益な腸内細菌と密接な関わりをもつ食品成分のことだ。あらゆる食物繊維がプレバイオティクスと呼べるとは限らないが、逆にあらゆるプレバイオティクスは、その定義から必然的に難消化性食物繊維になる。ここからもわかるとおり、たとえば最も一般的なプレバイオティクスであるイヌリンの含有量を測定すると、食事中の食物繊維の含有量を反映した数値が出てくる。(略)
食べ物と腸内細菌の相互作用のプロセスで重要なのが、プレバイオティクスが介在するものだ。プロバイオティクスと言えば、宿主の健康に効果がある特定の細菌のことだが、プレバイオティクスというのは、大腸内の細菌にとっては肥料になるような食品成分である。こういったほとんど消化されない食物繊維には、有益な細菌の増殖をさかんにするという作用があり、その種類はいくつかある。私たちが生まれて初めて出会うプレバイオティクスは、母乳に含まれているもので、オリゴ糖という。これは、糖類がかたく結合してできる複雑な化合物だ。
(ティム・スペクター『ダイエットの科学 「これを食べれば健康になる」のウソを暴く』 熊谷玲美訳 白揚社 p235)
ちなみに「プロバイオティクス」と「プレバイオティクス」は分けて考える必要はありません。このふたつを併用することは、「シンバイオティクス」と呼ばれており、「シンバイオティクス」を行うことは腸内フローラを改善するために非常に有効です。
「プロバイオティクス」や「プレバイオティクス」などの食品によって、腸内に善玉菌が増えると、腸内環境が改善されるため、腸の蠕動(ぜんどう)運動が促され、さらに感染症に対しても抵抗力が高まるので、便秘や下痢といった症状も緩和されていくという長所が生じてきます。
また、腸内フローラが改善されると、ビフィドバクテリウムやラクトバチルスといった善玉菌(有益菌)の菌数が増加し、大腸菌やクロストリジウムなどの悪玉菌(有害菌)の増殖は抑えられます。
さらに、アンモニアやアミン、インドール、硫化水素などの窒素残留物や、発がん性物質であるニトロソアミンの発生を防ぐことも出来ます。
したがって、「プロバイオティクス」と「プレバイオティクス」を両方とも行うことで、腸内細菌のバランスを整え、腸内フローラを改善していくことは、免疫力を高めたり、普段の健康を維持したりするのに非常に効果的なのです。
ちなみに「シンバイオティクス」(「プロバイオティクス」と「プレバイオティクス」)のサポートにおすすめのサプリメントとしては、乳酸菌革命や【ヴェーネデトシア】 などが挙げられます。
参考文献
上野川修一 『からだの中の外界 腸のふしぎ』 講談社
光岡知足 『腸を鍛える―腸内細菌と腸内フローラ』 祥伝社
新谷弘実 『病気にならない生き方』 サンマーク出版
新谷弘実 『健康の結論 「胃腸は語る」ゴールド篇』 弘文堂
松生恒夫 『腸に悪い14の習慣 「これ」をやめれば腸が若返る』 PHP研究所
辨野義己 『腸を整えれば病気にならない 腸内フローラで健康寿命が延びる』 廣済堂出版
鶴見隆史 『「酵素」の謎 なぜ病気を防ぎ、寿命を延ばすのか』 祥伝社
藤田紘一郎 『脳はバカ、腸はかしこい』 三五館
藤田紘一郎 『アレルギーの9割は腸で治る! クスリに頼らない免疫力のつくり方』 大和書房
内藤裕二 『消化管は泣いています 腸内フローラが体を変える、脳を活かす』 ダイヤモンド社
福田真嗣 『おなかの調子がよくなる本 自分でできる腸内フローラ改善法』 KKベストセラーズ
ティム・スペクター『ダイエットの科学 「これを食べれば健康になる」のウソを暴く』 熊谷玲美訳 白揚社