ここでは腸内細菌と遺伝子の関係について述べています。
「腸内フローラ」と表現されるほどの腸内細菌の遺伝子は、ヒトの遺伝子と関係を持ちながら、健康や生命の仕組み、免疫系など、ヒトのからだに対して様々な影響を与えています。
ちなみにヒトの腸内に生息している腸内細菌の種類は、これまで100種類程度と言われてきましたが、直接DNAを抽出する「メタゲノム解析」の手法によって、ヒトの腸内には1000種類、100兆個もの腸内細菌が棲息していることが分かってきました。
そして、その腸内細菌の総遺伝子数は想像以上に多く、実に多様であることが判明したとされています。
そのため、腸内細菌群は「第二のゲノム」と呼ばれ、ヒトの健康を考えるうえで軽視できない存在になっています。
例えば、腸内細菌と遺伝子・ゲノムに関して『腸科学 健康な人生を支える細菌の育て方』(ジャスティン・ソネンバーグ、エリカ・ソネンバーグ 著)では以下のように書かれています。
ヒトのマイクロバイオータにふくまれる各種の細菌は、固有の遺伝子コード、すなわちゲノムをもつ。すべての微生物にコードされた遺伝子群はマイクロバイオームと呼ばれ、私たちの第二のゲノムと言える。ヒトのゲノムが各人に固有であるように(一卵性双生児は例外)、二つとして同じマイクロバイオータはない。
(ジャスティン・ソネンバーグ,エリカ・ソネンバーグ『腸科学 健康な人生を支える細菌の育て方』 鍛原多惠子訳 p33)
マイクロバイオームは体内の指紋と考えることができる。ある人のマイクロバイオームは、他の人のマイクロバイオームでは分解できない特定の炭水化物を分解する能力をコードしているかもしれない。たとえば、日本人の中には欧米人のマイクロバイオータにはない、海藻を食べる細菌をもつ人びとがいる。日本人は海藻をよく食べるので、彼らのマイクロバイオータはこの豊かな食糧源を利用するように進化したのだ。
(ジャスティン・ソネンバーグ,エリカ・ソネンバーグ『腸科学 健康な人生を支える細菌の育て方』 鍛原多惠子訳 p33)
また、腸内細菌のゲノムとヒトのゲノムは、お互いが必要とし、共に進化してきたと言えます。
私たちは腸内マイクロバイオータを必要としている。ヒトはこの大量の細菌群を体内に棲まわせることを余儀なくされたので、進化に成功した生物すべてと同じことをした。互いに利益を得られる共生関係を結んだのだ。いわば、体内に棲まわせる見返りに、仕事をしてもらうことにした。
(ジャスティン・ソネンバーグ,エリカ・ソネンバーグ『腸科学 健康な人生を支える細菌の育て方』 鍛原多惠子訳 p33~34)
(略)微生物のゲノムは、ヒトゲノムの力では消化できない食物を大切な分子に分解する能力を授けてくれる。これらの分子は、腸内の炎症の度合いから、余分な熱量の効果的な保存まで、人体のさまざまな機能を調整する。こうした共進化による分業が見事な成功を収めたので、生物はずっとこれを利用してきている。
(ジャスティン・ソネンバーグ,エリカ・ソネンバーグ『腸科学 健康な人生を支える細菌の育て方』 鍛原多惠子訳 p35)